制度的色覚検査の撤廃を求める宣言      

 日本色覚差別撤廃の会


1  脱「制度的色覚検査」はなぜ必要なのか
 色覚の差異は実際には、日常生活でとくに支障のない場合が大半にもかかわらず、「色盲」という従来の呼称も相まって「色がまったく見えない」「交通信号が見分けられない」のでは、といった憶断と偏見にさらされてきました。また世間に巣くう遺伝への優生意識から、婚姻などにおいて心ない差別がいまだに根深く残っています。このような偏見や差別を長年にわたり助長してきたのが、実は全国の学校や事業所における「制度的な眼科的色覚検査」に他なりません。
児童・生徒への色覚検査については、大正期より約15年前まで、校内で強制的に一斉検査を受けさせられてきました。簡易かつ検出力過多な「石原式検査表」により、学校生活でとくに支障のない大半の者まで「異常」の烙印を押され、周囲の好奇の目と軽侮の声を浴びてきたのでした。実効ある事後的なフォローなどもなく、進路指導はと言えば烙印に基づいて安易な選別に加担するものでした。また、企業や官公庁の採用時でも長年にわたり、実際の職場の各業務において必要不可欠な個々の色彩識別能力なぞは元来判定しえない、画一的な眼科的色覚検査を漫然と信奉・護持し、合理的かつ客観的な根拠もなく無数の志望者に門戸を閉ざしてきました。
 このような不条理な状況をうけて、2001年の労働安全衛生法の改正規則、03年の学校保健安全法の改正規則の施行により、眼科的色覚検査はついに雇入時健診や学校定期健診における必須項目から削除されました。長年にわたる人権軽視の心無い処遇、不合理な社会的バリアの温床が制度的に撤廃されたことは、当事者の団体として画期的な前進と受け止めたところでした。
 しかし改正反対をかねて高唱していた業界団体(日本眼科医会)による執拗かつ計画的なキャンペーン・工作をうけて、文科省は2014年に学校色覚検査の再開を促す通達を発出。全国各地の学校現場では「同意」によるとの建前の下、「積極的な周知」に向けて国の提示したヒナ型に基づく「検査案内・申込書」を全保護者へ配布したため、実質的な同意の誘導により現に実施校が急増するなど制度的な復活、「過去に目を閉ざす」逆コースが進んでいるところです。
 眼科医会は検査推進の建前として「色覚検査を受けずに就職などで「被害」を受ける恐れが」などと、お為ごかしに不安を煽っていますが、調査のごく一部の事例による誇大広告のうえ、眼科的色覚検査では職業適性を元来判定できない事実には口をぬぐっています。また本人・家族は、自らの情報を「知られない権利」や「知る権利」と同時に、「知らされない権利」もまたプライバシー権として享有しているのです。まして色覚検査は機微にふれる遺伝情報が顕示されるものなのです。
 実は「被害」の真因は、合理的な根拠を欠く「眼科的色覚検査による制度的な排除」に他なりません。必要なのは、こうした社会的バリアをあたかも所与の前提とした「当事者個人の適応」ではなく、関係当局・事業者が改悟して「制度的色覚検査の撤廃」をこそ進める姿勢に他なりません。
2 制度的色覚検査に代わる新たな制度的プログラムを
 不合理な制度的色覚検査の撤廃とあわせて、関係当局および学校・事業所など関係者の連携協力により、次のような新たな対応の制度化が望まれます。
(1)学 校 
 教職員の各層に応じた的確な啓発・研修を通して、以下のように色覚バリアの撤廃、当事者に寄りそった的確なサポートなどに取組める体制を、校内で十分に構築することが求められます。
A 教職員一般への啓発
ア) チョークの色や各種掲示物の色使いなどで見分けにくさを感じる子どもの存在に気づき、物理面の色覚バリアへの認識を広め「合理的な配慮」を抽き出すこと。
イ) 級友や担任などの好奇の目や侮蔑する言動に心を傷つけられている事実に気づき、意識面の色覚バリアへの認識を広め、共感的な応対を醸成すること。
B 養護教員への啓発
 上記Aの啓発・研修に加えて、色覚とその差異、社会的な(制度面・物理面・意識面の)色覚バリアへの認識をさらに深め、色覚に差異のある子どもや保護者たちへの共感的な傾聴、適切な配慮や助言を担えるように育成すること。
C 進路指導担当への啓発
 上記Aの啓発・研修に加え、特に制度面の色覚バリアの現状に対する批判的認識を深め、子どもの最善の利益の見地の下、共感的な対話や進路保障を実践できるように育成すること。
(2)雇入事業者 
 当事者の職務遂行上で不合理な壁となりうる、職場の根拠を欠いた色使い等をまずゼロベースで点検し、漫然と続く無用な物理面の色覚バリアの「合理的な配慮」による撤廃(見分けやすい配色、色以外の表示など)、当事者の理不尽なハンディのミニマム化の徹底を前提条件として、以下のように採用・就業において人権を尊重した対応の図れる体制の構築が求められます。
A 人事部門職員への啓発
 雇用関係法令に基づいた色覚バリアフリーへの認識を深め、眼科的色覚検査による不条理な排除・選別システムを撤廃、次のようなオルタナティブな選考システムを構築すること。                
ア) 色彩識別が必要不可欠な職種や職務の内容、それに照応する色彩識別力の水準、およびそれらの根拠を個別具体的に検証・明確化する。
イ) 上記に基づく個別具体的な簡易判定用の画像等を作成、パンフやサイト上などで求職者へ開示し自ら簡易に判定できる手立てを提供する(但し不公正な事前選考への転用は許されない)。
ウ) 求人票・健診票等では色覚欄を撤廃するとともに、採用選考時には一律の眼科的色覚検査に替えて、各職務に必要不可欠な色彩識別力に特定した、各職域の現物による判定にとどめる。
B 職員一般への啓発
 当事者への心ない偏見や差別に気づき、むしろ職場の仲間として色覚を適宜サポートできるよう、意識面の色覚バリアへの認識を広め、共感的な応対を醸成すること。
                               2017年11月