焼肉の話から思うこと

焼肉の話から思うこと

桐畑 善次

 

 就職時の試験で色覚検査があり、その時初めて自分の色覚特性を知ったという話は、そのことによって希望する職種に就くことができなかった、という話に展開し、「かわいそうであった」という他者からの意見、さらに「もっと早くから知っておきたかった」という本人の意見が出されます。そして、だからこそ学校で「色覚検査を復活させるべき」という流れになっていきます。それに対し、私たちは異議を唱えてきました。

それはその色覚検査がそもそも「石原表式」という色の識別能力を測る検査ではないものが使われていること、それにより多くの業務に支障のない人まで排除してきたことは就職差別であり、問われているのは色覚差別を放置している社会の方であるという視点からです。だから私たちは制限を加えてきた業種の企業に対し、どうしても色の識別能力を検査する必要があるというのであれば、「実物」でやるように要望してきました。

一方、その制限理由の多くが「信号の色が識別できないと…」などの人工的に作った「物」についての識別能力となっています。これは本来、バリヤフリーの問題であり、社会が「強度」の色覚特性の人に配慮し変えていくべき問題です。

したがって学校での色覚検査に賛成する人たちに言いたいのは、「かわいそうだ」という視点で賛成するのではなく、「石原表式」による色覚検査で排除している社会そのものを変える方向で、当事者を支援してほしいのです。他人事として放置したまま色覚検査に賛成することは、色覚差別を助長し拡大している行為であることに、本当に気づいてください。

 以上のような基本的視点を述べたうえで、先日、「撤廃の会」で焼肉の話について議論しました。就職選考時に色覚検査を受け、自分が「色覚異常」であると初めて気がついたという人が、次によく焼肉の話を出します。テレビでもそのような流れを、焼肉の映像を流しながら放映されました。このことに対して私は「いつも頭にくる」と発言させていただいたわけです。

 そもそも日常生活で自分が他の人と色の識別能力が違うと気がつかなかった人が、「そういや焼肉の肉が焼けたかどうか、わからなかった」という話を持ち出すことに対する違和感です。焼肉の肉が焼けたかどうかは、色の識別だけで行っているのか、ということです。そういうことを大声で言う人は、そもそも料理を自分であまりしていないのではないか、と思うのです。表面が焼けていても中が焼けていないというのは普通の場面でよくある話です。火の強さ、時間、焦げ具合、肉の厚さ、肉の種類など様々な条件によって、焼き具合を測るものであり、肉の色だけで測るものではないのです。

だからバーベキューなどをしていても、肉が焼けたかどうかは結構わからないもので、「焼きが足りない」「もうちょっと焼いて」などの声は当たり前のようにあります。家で料理をしていて、外見が焼けているようでも心配な時は電子レンジに少しかけることをする人は結構おられるのではないでしょうか。そして、おいしく作るには焼きすぎてもダメなわけですから、そこを料理の経験で補っているはずです。あるいは料理本やネットのレシピなどに頼っている人も多いのではないでしょうか。

またそもそも焼肉のその肉は何肉だったのでしょうか。牛肉などは好みによって焼き具合が変わるのはご承知のとおりです。みんなで焼肉をしている時にわからなくて出遅れるというようなことを言っているのでしょうか。それも特に牛肉であれば半生でも手を出す人も多くいますし、焼け方が自分に合わなければもう一度焼き直す人も多くいます。豚肉の場合はしっかり焼きたいと思う人が一般的で、多くの人は焼き具合を入念に確かめます。あと新鮮な肉かどうか、高い肉か安い肉かによって焼き方は変わります。

焼肉の肉が焼けたかどうかは、色の識別だけでやっていないんです。だから色覚検査で引っ掛かった瞬間、「そう言えば焼肉の肉が焼けたかどうか今までわからなかった」という振り返りをする人に、本当にそうなのか、もう一度よくよく振り返ってもらいたいものです。また、検査の必要性を説明する眼科医や養護教諭、放送に携わる人たちが、安易に「焼肉の肉が焼けたかどうかわからなかった」という事例を、ことさらに持ち出すことは本当にやめてもらいたいです。そして、その行為自体が色覚特性のある人に対する偏見を拡大させていることに気づいてもらいたいです。

 

とにかく検査の必要性を説明される人が、「採用試験で色覚特性をしって希望の職種に就けなかった人がかわいそう」と発信したり、その際に初めて知った人が「焼肉の肉が焼けたかどうかわからなかった」というような話を持ち出すことは、色覚差別を容認し拡散していくものだと私は考えます。だから私は声を大にして言いたい。「色覚の特性を説明するときに『焼肉の肉の話』を持ち出すことは本当にやめていただきたい。」と。