本年7月1日付で「動力車操縦者運転免許に関する省令」の改正があり、色覚の基準も添付資料中にあるとおり文言が修正されました。
本会として問題の焦点は、新基準にいう「運転に〈支障〉を及ぼさない」ことの判定方法において、石原表などスクリーニング検査たる仮性同色表の「1次判定」のみで、当否を判断できる従来の方法をも併せて修正したのか否かにあることに基づき、前後4通にわたる照会文等を送付、当局から3度にわたり回答文が届いたところです。
ここでは以下のとおり、当局の3度目の回答文(1・2度目の回答も前半に含まれている)、および本会の3・4通目の要請・見解書を添付しました(なお本会の1・2通目の照会文は、抜粋が当局の回答文に記載されています)。
2024年8月29日
国土交通省鉄道局
安全監理官 竹島 晃 様
日本色覚差別撤廃の会
会長 小田 愛治
動力車操縦者運転免許に関する省令の改正について(要請)
標記に関しましては、この間2度にわたりご回答をいただき、まことにありがとうございました。
ご回答を踏まえまして、本会の見解と要請をあらためて提起いたしますので、よろしくご高配の上ご回答をいただければ幸いです。ご多忙のところ恐縮ですが、来月11日(水)までに必着でお願い申し上げます。
A、今回の改正について
1、「身体検査基準」
2021年のマニュアル(仮称)においても、脚注は加えられたものの本文の表記は墨守され、したがって省令上の表記も旧慣が堅持されたところです。
このたび人手不足という外堀に起因するものだったとはいえ、また甚だ遅きに失した(*1)とはいえ、マニュアル本文の表記を離れて、今回はじめて表記を修正されたことは評価するところです。
(*1)ご案内のとおり本件については、はなはだ時代遅れのものとして、2018年4月の藤井鉄道局長(当時)等と本会役員が面談した折をはじめ、本会として再三にわたり改正要請を重ねてきました。
2、「検査方法」
上記マニュアルの附録6−2のフロー図(57ページ)には、なぜか本文の記述(15ページ)には存在しない、矛盾した内容が書き加えられていました(*2)。そこで2021年12月に、鉄道局安全監理官付職員と本会役員が面談した折に、その矛盾の補正を要請したものの、言を左右に弁明に終始されたところです。
今回の省令改正に伴い附録6−2は当然、あわせて改定ないし廃止されると期待しましたが、ご回答に見られるように理由不明のまま依然として墨守されており、はなはだ遺憾とする次第です。
(*2)本文(15ページ)では、第1段階の「(1)仮性同色表によるスクリーニング検査」と第2段階の「(2)眼科医による精密検査」(パネルD−15など)の2本立てとなっていますが、附録6−2(57ページ)では、第1段階の「身体検査医による判断」(スクリーニング検査)から第2段階の「専門医による診断」を迂回して、第1段階の結果だけで「異常」と判定する〈バイパス〉がなぜか右端に書き加えられています。
また、附録6−2の下部には、これも先の本文中には存在しない「最終的な総合判断は身体検査医が行う」との一文が加えられており、本文の内容と著しい懸隔を示していました。
B、提言 ー 「検査方法」の抜本的見直し
1、まず早急に、本文の内容と背馳する附録6−2内の抜け道たる〈バイパス〉、同下部の失当な「最終的な総合判断は身体検査医が行う」の表記、これらをともに削除した新たなフロー図を作成し、あるいは附録6−2自体の適用を廃止することとし、あらためて関係方面に通知すること
当該〈バイパス〉とは、スクリーニング検査たる第1段階の検査のみで判定を確定させる(確定診断とする)もので、スクリーニング検査の定義を踏み外した、およそ前科学的・非合理的な規定と言わざるをえません。
また、「身体検査医」とは産業医などとされていますが、周知のとおり産業医とは、医師の免許をもつ者が50時限ほど座学を修了すれば、誰でも取得できる資格であるばかりでなく、当該座学には色覚のカリキュラムは何一つ入っていないものです。産業医のほか委託機関の健診医も身体検査医とされていますが、両者ともに当然ながら色覚の専門職とは程遠いわけで、第2段階で「専門医」が下した判断結果を、そうした「身体検査医」が「最終」的に覆すことができる条理が一体どこにあるのでしょうか?旧弊を率直に改めるべきです。
実際にも先般、とある鉄道会社へ運転士を志願した若者が、第1段階の石原表の結果のみで不可とされ、本会にも相談の入った実例があります。彼は諦めずに眼科医院で受診し、パネルD −15 をパスしたので、会社に再考を求めましたが、産業医も含め誰も例のマニュアルの存在すら知らない有り様との由。
その後、会社は厚労省窓口の指摘を受けて、にわかに(マニュアルの一部を本人から取り寄せて!)検討をはじめたものの、くだんの附録6−2を盾に「産業医の最終的な総合判断」により不可を墨守した、というきわめて遺憾な対応でした。
2、加えて以前より提起しているとおり、もっぱら〈現場の現物による判定〉に切り替えた、あるいは少なくとも〈現場の現物による判定〉を最終的な3段階目に組み入れた、新たな「検査方法」の規定を作成し、関係方面に通知すること。
眼科的色覚検査は元来、改正省令の「身体検査基準」にいう「動力車の操縦に支障を及ぼすと認められる色覚の異常がないこと」の判定には適当な「検査方法」ではありません。
2001年に厚労省が「知見の蓄積」に基づいて労働安全衛生規則を改正し、雇入時健康診断における色覚検査を廃止した折に、「色覚検査は現場の職業適性を反映するものではない」と問題の本質を周知啓発していたところです。
仮に多数の志願者を事務の便宜上やむをえず、眼科的色覚検査(精密検査も含め)で初めにふるい分けするとしても、その結果だけで判定するのは、至って非科学的・非合理な対応と言わざるをえず、最も確実な〈現場の現物による判定〉で合否を決定すべきなのです。
問合せ・返信先
tetpainokai@gmail.com
2024年9月18日
国土交通省鉄道局
安全監理官 竹島 晃 様
日本色覚差別撤廃の会
会長 小田 愛治
動力車操縦者運転免許に関する省令改正をめぐって(見解)
標記に関する本会要請文(8月29日付)につきましては、先般ご回答いただき心よりお礼申し上げます。引き続き見直しのなかった附録6−2に関する疑問点について、ようやく照応する見解をいただけました。
つきましては、それら回答内容等について本会の所見をお伝えしますので、よろしくご参照のうえ再検討を願えれば幸いです。
なお、今回の省令文言改正について改めて、また今月11日付の通達についても、ひとまず取組を評価しているところです。
1、附録6−2の改廃について
①フロー図右端の〈バイパス〉
ご回答では「本人が過去に〈色覚異常〉と診断され、それを明確に認識しているときに、本人の負担を考慮して」との旨を記していますが、ほとんど非現実的で不合理な発想と思われます。
過去に学校その他で「色覚異常(の疑い)」と判定された当事者が、そもそも色覚にとりわけ厳しい鉄道会社を志願するのは(後述のとおり)かなり限られるでしょう。
他方、志願止みがたく受験する限られた当事者の多くは、第2段階の精密検査の「負担」など初めから苦にする道理などありえないでしょう。身体検査医がそうした当事者の「異常の疑い」の1次判定に対して、独断的に「異常」と断じることができ(〈バイパス〉の表記)、結果そのまま「不適合」となることなど許される処置でしょうか?文末の※なお書き「希望者は」云々も本末転倒の発想でしょう。
マニュアル本文にも存在しない、このような不適当きわまる〈バイパス〉の残存は、判定現場に著しい誤解を招き、志願者への弊害はまことに甚大たること明白です。
②フロー図下の表記〈身体検査医の最終的な総合判断〉
ご回答では「産業医などの身体検査医が鉄道事業や動力車の操縦に精通しているため」との旨を記していますが、これまた非現実的かつ不合理な発想に他なりません。
身体検査医は元来、事業所の産業医だけではなく、委託医療機関の健診医なども含まれているところ、後者が「鉄道事業や動力車の操縦に精通している」道理などありえないでしょう。
他方、鉄道会社内の産業医にしても、現場の実物(信号機など)自体には多少とも明るいとしても、それらの識別と眼科的色覚検査の結果との相関などの科学的考察において、何らか秀でているという論拠はどこにあるでしょうか?見かけ・イメージ以上の知見など無い、いわば虚像に相違ありません。
このように身体検査医に身の丈以上の判定権限を付与する仕組みは、これまた当事者への弊害まことに甚大たること論を待たないでしょう。
以上、きわめて非現実的かつ不合理な〈仮性同色表のみによるバイパス〉および〈身体検査医への過分な自由裁量付与〉を、マニュアル内に公然と残置させるのは、はなはだ理不尽な対応と言わざるをえません。
2、〈現場の実物による判定〉の導入について
ご回答では「判定を行う身体検査医の負担を考慮して」の旨を記していますが、これまた現実と乖離した不合理な発想と言えるでしょう。
周知のとおり眼科的に「色覚異常」と判定されるのは男性の約5%となっています(女性は0.2%と少数のため、ここでは割愛)。ある鉄道会社がある時点で仮に50人もの新規採用を図って、筆記その他の試験をパスした60人に色覚を含めた健診を実施したとして、第1段階の色覚スクリーニング検査で「色覚異常の疑い」と判定されるのは、3人(60人✕5%)位にすぎません。
しかも前述のとおり、色覚にとりわけ厳しい体質の鉄道会社をなおも志願する当事者はごく一部と見込まれます。その割合を仮に2割(⇒5%✕0.2=1%)と見積もれば、「色覚異常の疑い」と判定されるのは(60人✕1%)せいぜい1人位にすぎません。
たったこれ位の人数に〈現場の実物による判定〉を実施したとして、身体検査医の「負担」となる道理は一体どこにあるでしょうか?
そもそも〈業務現場の実物による判定〉は特だん産業医などの手を煩わすことなく、しかるべき従業員らが当事者の運転操作=色彩識別の様子を側で観察・チェックすれば足りるものです。したがって、その気になれば「60人」全員に、眼科的色覚検査抜きに〈現場の実物による判定〉すらできるはずです。
元来「色覚検査は職業適性を反映するものではない」(厚生労働省)以上、根拠もなく眼科的色覚検査を妄信・墨守せず、〈現場の実物による判定〉が最も合理的かつ簡便な職業適性の判定方法であるという道理を、長年愛用の色メガネを外して直視されるべきです。
以上、「身体検査医の負担」といった予断を排し、眼科的色覚検査から〈現場の実物による判定〉に切り替える、あるいは少なくとも第3段階に追加する、これらが最も現実妥当な対応にちがいありません。
3、現場の色彩環境のバリアフリー化
〈業務現場の実物〉によって真の色彩識別度を判定したとしても、結果として業務上「支障」があると判定される当事者は一部生まれるかもしれませんが、これは不合理な理由による「差別的な取扱い」とまでは言えず、運行の安全性もふまえれば受忍せざるを得ないものでしょう。
しかし、その合否の判定ラインは、信号等における色彩その他の〈表示環境のレベル〉により変動する「関数」と言えます。つまり、カラーバリアフリーないしカラーユニバーサルデザインのコンセプトに基づき、誰もが容易に識別できる信号等へと設備を補修していけば、不合格とされる当事者はほとんど消失するはずです。
本件においても、いわゆる医学・個人モデルに拘泥せず、環境・社会モデルに目を開き、色覚の当事者が信号等を容易に識別できる設備上の環境整備を、計画的・迅速に推進されることを改めて要請します。
ご連絡・問合せ先
mail:tetpainokai@gmail.com
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