2021年12月15日

国土交通大臣 

斎藤 鉄夫 様

日本色覚差別撤廃の会

会長  荒  伸 直

 

動力車操縦士身体検査マニュアル(仮称)に関する要請

 

 本年春に作成された「動力車操縦士の身体検査に関する調査検討報告書」(日本鉄道運転協会)内の「動力車操縦士身体検査マニュアル(仮称)(試作案)」(以下、「マニュアル」)において、色覚のとりまとめに関して看過しがたい重大な点がありますので、下記のとおり問題を提起しつつ当局としての適切な対応を求めるところです。

 

 

1 色覚の身体検査基準は「動力車の操縦に支障のない色覚を有すること」に改定すること

今回のマニュアルでは、現在の法令(動免省令・別表2)上の「身体検査基準」の当該表記「色覚が正常であること」を変更せず、単にマニュアル上の表記の脚注で、この表記は「動力車の操縦に支障を及ぼすと認められる色覚の異常がないこと」と同義である旨を記すことにとどめています。従来の表記は長年にわたる運用の実態として、スクリーニング検査に過ぎない石原色覚検査表のみで判定を下すこと、「石原色覚検査表を誤読しない」ことと同義の取り扱いとなってきた不合理きわまりない負の歴史と不可分であり、かねてより本会もその弊害を指摘してきたものでした。この点、2018年4月に鉄道局担当官と面談した折に、藤井局長(当時)が開口一番「この表記は時代遅れなので改訂したい」と明言された次第です。にもかかわらず今回のマニュアルでは省令上の文言の改訂はしないものとしているのです。

 当局としてはその理由・経緯を十二分に検証しつつ、ぜひ当事者の実際の色彩識別度に即した上記の表記、「動力車の操縦に支障のない色覚を有すること」に改定されたい。

 

2 色覚の検査方法には「現場の実物による色彩識別度の判定」を最終的な方法として加えること

 もう一つ重大な問題は「検査方法」の表記です。マニュアルでは、スクリーニング検査としての石原表に加えてパネルⅮ―15等を提示しており、上記のような運用の実態を一部変えようとしたことは一定の評価を否定するものではありません(但し「附録6-2 色覚の判断方法等の手順」には、石原表のみで判定できるフローもあり、本文の記述と明らかに矛盾しており、マニュアル確定版での補正は必要不可欠でしょう)。

 しかし、そもそも石原表は擬陽性率の高さなど検査技術面での限界に加え、国内では上記のとおり確定診断のごとき取扱いなど社会的な弊害はつとに指摘されてきたところです。また近年の欧米の新たな検査方法・器具の知見について、いわんや本会が上述の面談の折にも強く要請した「業務現場の実物によって真の色彩識別度を判定する」方法については、およそ調査検討された形跡がありません。

 以上ひとまず、2001年の労働安全衛生規則改正において厚生労働省がつとに「色覚検査は現場における職務遂行能力を反映するものではない」と提起していることを十分ふまえ、当局においては少なくとも2つの眼科的な色覚検査の後に「現場の実物によって真の色彩識別度を最終的に判定する」方法をぜひとも追加されたい。

 なお、この判定方法の導入を採用した上で、どの実物の識別が必要不可欠なのか、根拠に基づいた具体的な基準を設定することが適当ですが、それらの検討にあたっては当事者の参画を望みます。

 

3 誰でも見分けられるカラーユニバーサルデザイン(CUD)の信号へ計画的に補修をすすめること

 「業務現場の実物によって真の色彩識別度を判定」したとしても、合格しない当事者が一部生まれると推定しますが、これ自体は不合理な理由による差別的な取扱いとまでは言えず、運行の安全性も考慮すれば受忍せざるをえないものです。

 しかし、この合否のラインは信号における色彩その他の表示の環境レベルにより変動し、そのあり方といわば相関関係にあります。つまりカラーユニバーサルデザイン(CUD)のコンセプトに基づく合理的配慮により、上記の識別が必要不可欠な実物について、誰もが容易に識別できる信号へと設備を適切に補修していけば、結果として不合格者はほとんど消失する道理でしょう。

 

 本件の根本的な解決方途としては、旧来のいわゆる医学・個人モデルに基づく選別排除・自己責任に固執するのではなく、環境・社会モデルに基づいて、色覚の当事者をはじめ誰もが容易に信号を識別できる設備上の環境整備を、計画的・着実に推進されたい。