2017年11月5日 

文部科学大臣  林 芳正 様 

 

色覚に関する遺伝学用語の改訂について(要請) 

 

日本色覚差別撤廃の会  会長  荒  伸 直  

 

 私たちは、色覚当事者の有する能力の正当な評価を通じて、不当な偏見や差別を受け ることなく、自らの社会生活の向上を図る当事者の集まりです。  このたび本会は、遺伝学用語のうち長年にわたり色覚当事者への偏見や差別の温床と なってきた用語について、貴省に対して専門的な知見に沿って用語改訂を受け容れ、省 内の関係文書等において早急に読み替え等の措置を実施、周知されることを要請します。

 

 

 周知のとおり本年9月、日本遺伝学会は遺伝学用語の改訂を提案しました。この改訂 は同学会内の専門委員会が10年近くをかけて検討してきたものです。きわめて画期的 な取組ですが、なかでも本会と特に関連の深い遺伝学用語、すなわち「優性・劣性」「色 覚異常・色盲」について、それぞれ「顕性・潜性」「色覚多様性」への改訂を提案して います(別記(裏面)参照)。  色覚の差異に対しては従来「色盲」や「色覚異常」との用語が平然と使われ、ひろく 普及・定着してきました。これらは不当に世間の誤解と予断、偏見と差別を助長してき たばかりでなく、色覚当事者の自尊感情をも損なうものでしたが、①“眼科的”色覚検 査で色覚“異常”と判定されても、大半は日常生活の上で支障がないこと、② 日本人 男性の20人に1人も相当することなどを勘案すれば、これらの呼称はきわめて不適切 に相違ありません。  また、ヒトの色覚の差異は性染色体(のX染色体)における「変異」で発現し、一般 に「伴性“劣性”遺伝」の典型例とされてきました。しかし「優性・劣性」の表記はあ たかも各遺伝子に価値の「優・劣」があるかのような誤解と予断をあたえる「誤訳」で あり、まさに色覚当事者は遺伝上「劣った」存在であるかのようなマイナスイメージを 流布・拡散させ、根深い偏見と差別を招いてきた呼称に他なりません。 

 

 そこで貴省におかれては、当事者の人権にも触れる旧来の「色覚異常・色盲」「優性・ 劣性」の用語法に替えて、いずれも価値中立的な「色覚多様性」「顕性・潜性」への改 訂を日本遺伝学会が提案したことを真摯に受容し、関係文書等において読み替え等の措 置を早急に実施、全国の教育委員会等も含め幅広く周知されることを要請します。 

<別記>  同学会ホームページ、同学会監修・編『遺伝単』より 

 

1. <dominant, recessive>優性→顕性及び、劣性→潜性  「優性、劣性」は遺伝学用語として長年使われていたが、優・劣という強い価値 観 を含んだ語感に縛られている人たちが圧倒的に多い。疾患を対象とした臨床遺伝 の 分野では「劣性」遺伝のもつマイナスイメージは深刻でさえある。一般社会にも すでに定着している用語ではあるが、この機会に、歴史的考察もしなかがら、語感

がより中立的な「顕性、潜性」に変更することになった。この用語変更は、日本人 類遺伝学会との共同提案である。 

2. <color blindness>色覚異常、色盲→color vision variation 色覚多様性  英語の color blindness に相当する日本語は、教科書でもメディアでも「色盲」 を避けて「色覚異常」に統一されている。日本医学会の改訂用語(2008)でも「2 色 覚」 (旧来の色盲)、「異常 3 色覚」(旧来の色弱)が提示されている。しかし、一般集 団中にごくありふれていて(日本人男性の 5%、西欧では 9%の地域も)日常生活にと くに不便さがない遺伝形質に対して、「異常」と呼称することに違和感をもつ人は多

い。 Color blindness に対する邦語の適訳がないので、この用語集では(日本人類 遺 伝学会との共同で)邦語と英語をペアにしたかたちで、色覚多様性(color vision variation)という呼称(概念)を提案する。 

 

 

 

 

 

 

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