NHKのEテレ番組「ハートネットTVフクチッチ」において、8月12日・19日「色覚の多様性」をテーマに前編・後編の2回放送されました。
色覚問題を番組として取り上げること、それを多様性の観点から考えてみようとするなど評価できる所と、視聴者に間違った認識を持たせるのではないかと思われる所があり、てっぱいの会として番組制作担当者宛に意見を申し上げました。以下がその意見書です。
なお、9月10日現在で担当者からの何らかの返信はありません。
2024年8月30日
ハートネットTV フクチッチ
番組制作担当者 様
日本色覚差別撤廃の会
会長 小田 愛治
「ハートネットTVフクチッチ”色覚の多様性“」
の番組内容について
本会は、色覚に差異のある者の有する能力が正当に評価され、その社会生活が向上することを目的に活動している当事者・家族の団体です。
去る8月12日・19日放送の貴局番組「ハートネットTVフクチッチ前編・後編」において放送された内容について、意見を申し上げます。
まず、色覚問題を取り上げる番組姿勢に当事者団体として敬意を表します。とりわけ以下の点について印象深く思いました。
・色覚差別の歴史についてスウェーデンの列車事故までさかのぼり丁寧に取材された内容となっている。
・職業制限について徳川さんの見解を紹介した上で、労働安全衛生規則改正に言及し、制限の現状を伝えている。
・色覚当事者の前向きに生きる姿を紹介している。
・カラーバリアフリーの意味と具体例を分かり易く解説している。
一方、問題と思える内容もあり、次の3点について意見を申し上げます。
(1) 「色覚の多様性」のとらえ方に問題がある。
ヒトの色覚は一人一人に違いがあり、その人がどのように見ているかは他の人にはわかりません。色覚の違いの分布は多様で連続的なスペクトラムであり、このことを含めて色覚の多様性と言われています。眼科的色覚検査(石原色覚検査表:以後石原表)はこの多様な分布の人の集団を石原表が読めると「色覚正常」、誤読すると「色覚異常」として2つのグループに仕分けする二分法をしているのです。したがって当然「正常」のグループのメンバー一人一人に色覚の違いがあり、「異常」のグループにもばらつきがあります。
2017年、日本遺伝学会は「色覚異常」という呼称について、学術的には異常ではなく多様な形質の1つにすぎないとして「色覚多様性」とするとしました。また、近年コンピューターを利用しての色覚の検査法が開発され、色覚のばらつきが可視化されるようになり従来の二分法の実像が明らかになっています(イギリス民間航空局のCAD、アメリカ空軍のCCTはその例で、職員採用に利用されている)。
番組は、「色覚の多様性」というタイトルに掲げながら、上記の眼科的色覚検査による二分法にとらわれた内容になっているのではないでしょうか?「色覚異常」の人たちは「こんなに色間違いをする」「こんなに困っている」ことを強調し、ゲスト解説者も「色覚異常」「色覚障害」という言葉を連発しています。これで色覚の多様性を子ども達は正しく理解するでしょうか?色覚当事者への誤った認識をもたせることになるのではないかと心配します。
私たちの社会は違いのある多様な人たちから成り立っており、自分もその多様の一部であるという認識を持った上で、困りごとのある人がいるとしたらその問題を理解し協力して、誰もが生きやすい社会をめざすことが求められています。色覚の多様性もその一つです。
(2) 体験メガネ・色のシュミレーターの説明に問題がある。
番組では、体験メガネ・色のシュミレーターを使用するときに、「色覚異常の人はこんなに見えている」「色覚異常の人の見え方」との説明がありますが、これは事実に反しています。前述(1)で述べたような色覚の多様性において一律に同じ見え方になるはずがありません。不合理な二分法で仕分けされた1つのグループの人は一律にこう見えていると言えるはずがないのです。
これらの道具は2色覚の者の「色の区別のしずらさ」をいわゆる正常3色覚の者が分かり易く理解するように色彩光学的な計算の上で作られたもので、決してそう見えているのではありません。これらの道具は、カラーバリアフリーの視点から、使われている色の区別のしずらさを調べ、配色を変えたり色以外の手がかりを加える等の手直しをする時の道具として有効なのです。
このような内容を理解しないまま、「色覚異常の人にはこのように見えている」とのメッセージが伝えられた場合、誤った認識を持たせることになり、色覚当事者は「色判断が出来ない」「色判断を誤る」という偏見につながることを心配します。
(3)眼科的色覚検査制度の歪んだ歴史的実像とその帰結としての社会的バリアに対する掘り下げが足りない。
大正期にはじめられた学校色覚検査制度は、戦後に法制化されたわけですが、エビデンスを欠く石原表と附録の「解説」を日本眼科医会は一貫して不磨の大典のごとく信奉し、当事者たちを十分な根拠もなく職業上「危険」な存在として選別・排除を先導してきたのでした。
「知見の蓄積」に基づき2001年の厚労省規則改正で雇入時の色覚検査は廃止され、就職上の制限はある程度縮小しましたが、当時の啓発リーフレット中の「色覚検査は現場の職業適性を反映するものではない」と明記した知見を深く受け止める必要があります。
日本眼科医会はこの意味するところを故意に?看過し、あまつさえ「就職時のトラブル」を針小棒大に煽り立て、学校色覚検査制度の復古を工作してきた、いわばマッチポンプの顛末はご存知でしょうか?くだんのホルムグレンを彷彿とさせる所業です。こうして今また、「希望」や「同意」の仮装の下に、いわばガラパゴスともいえる制度的な学校色覚検査が広く実施されているのです。
以上の歴史的実像や社会的帰結については、福祉番組!?として盛り込むのは限界もあるのでしょうが、他の話題における語り口あるいは語らないことにより、視聴者へ与えるイメージが相当に変わることを肝に銘じていただくことを、釈迦に説法と思いつつ本番組を観てあらためてお願いする次第です。
以上、色覚当事者として憂慮されることを述べましたが、番組製作上の課題として検討していただき、次の番組作りに生かしてもらうよう要望します。
なお、今回の件についてのご質問・ご意見等がありましたら下記までご連絡下さい。
よろしくお願いします。
日本色覚差別撤廃の会 事務局
〈問合せ・返信先〉【メール】tetpainokai@gmail.com
〈参考〉〒211−0004 川崎市中原区新丸子東3-1110-12
かわさき市民活動センター気付
HP:https://tetpainokai.jimdofree.com/
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